Avis caerulea


コスモスの戦士が集う館は昼下がりの安らぎが満ちている。
昼食の片づけを終えたティナは居間で思わず足をとめた。
めずらしく、フリオニールがソファーで居眠りをしている。手に持っていたであろう本は滑り落ち、床に転がっていた。
ティナが近づいてまじまじと観察しても、ぴくりともしない。安全な場所だからと安心しきっているようだ。
(わあ、まつげながい)
日に焼けた浅黒い肌に、銀色のまつ毛が映える。きつい印象を与えてしまう釣り上がり気味の目が閉ざされていて、彼が自分と同い年の青年であることを思い出した。
フリオニールが記憶も経験もとぼしい自分と違って、地に足がついた生活を送ったことがある分健やかだ。年相応の直情さもあるけれど、同じだけの寛容さも持ち合わせている。
ちりりと胸の奥が疼いた。
(うらやましいな)
やっぱり、自分は「違う」から。
知らず、眉がひそめられたとき。
「う、んん…」
ゆっくりと、フリオニールのまぶたが開いていく。
(…変わった色)
光彩は髪と同じ色かと思っていたが、良く見ればグレイにセピアインクを一滴垂らしたような色合いだ。
「…ティ、ナ…ってわあっ!」
ぼんやりとした目がティナを認めたとたんに、さあっとほほが赤くなる。
「こんにちは? それともおきたてだからおはよう?」
「どっちかっていうとこんにちはかな…て、そうじゃなくて」
「フリオニールを見てたの。居眠りなんてめずらしいなぁって」
「え、ああ…。昨日、カードゲームに付き合わされてあんまり寝てないんだ。ごめん、邪魔だったよな」
「ううん、そんなことない。あのね」
「うん」
「フリオニールの目って不思議な色してるのね、とってもきれい」


寝床は気持ちいい。いい夢を見ていたのならなおさらだ。
すでに体は目覚めていたけれど、ティナはなんとなくぐずぐずしていた。
(ああ、でも起きなきゃ)
子どもたちが待っている。
とても長く感じられた別の世界の物語は実際には数日のもので、手元に残ったのはクリスタルだけだった。
繰り返し思い出していた記憶はいつまでも鮮明なままで、ふとした瞬間によみがえり、同時に胸が熱くなる。
愛というものは春のひなたのようにあたたかいものとばかり思っていたのに、フリオニールを思う時夏の日差しのように燃える。
(ばかだ)
両親もこんな想いを抱いていたのだろう。
(気づくの、おそすぎる)
これが、恋なのだ。
「ママ、ママ、お客さんだよ」
子どもの声で我に帰る。
こちらの世界のケフカを倒して半年、大人は相変わらずティナひとり。行商人や旅人と話すのはティナの役割だ。
「どんな人?」
「おっきいひと! マッシュおじちゃんほどじゃないけど。チョコボを連れててね、ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけだけど、こわいかんじ」
「まあ」
「ぼくはだいじょうぶだよ? でもティミーがこわがっちゃってさ」
「そんなことないよー、フレッドもそうだろ」
「はいはい」
きゃらきゃらと騒ぐ子どもたちとともに広場に行く。単調な生活において旅人はアクセントだ。珍しい話が聞けるかもしれないし、おいしいものを持ってきてくれるかもしれない。ときおり訪れるティナの仲間たちなら確実だ。
村に入ってすぐの広場に旅人はいた。チョコボに水をやっている。
頭のバンダナと束ねられた銀髪に見覚えがあった。

引きずるほどの空色のマントは旅に汚れ。
バンダナの装飾はほとんどなく。
体のあちこちにさげられた武器はわずかに輝きをなくし。
それでも、そのセピアグレイの目は涼やかに。

「やあ、ティナ…久しぶり」
「う、そ」
「嘘じゃないさ、夢でもない」
「フリオニールっ!」
たまらず駆けよれば、たくましい腕がきちんと抱きとめてくれる。
「どうし、て、ここに」
「クリスタルに願ったんだ…君に会いたいって」

「ねえ、笑って。夢じゃない君の笑顔を見たいんだ」



初出はブログ。多少なおしてあります。
蛇足ですがバンダナの宝石(?)は路銀にしたという設定です。ついでに最初にテレポしてきたのはフィガロ近辺。世界地図をすっかり忘れていて涙目。
タイトルは「青い鳥」です。

ここまで読んでくださってありがとうございました!
10・02・18 翔竜翼飛

-- back